上人橋通り物語 第三話

 

もう、江里先生とは仕事できない。

やり直しだ。

まだ工事には入っていないはずだし。

そんな気持ちで翌日現場へ行くと江里先生がいて墨うちを業者さんにさせていた。

 

なんで?

「先生、何やってるんですか?」

「図面を現場に落とし込んでいる。墨うち…」

「あ、見たらわかりますけど」

 

そんなやりとりをしてるうちに建築資材が現場にどんどん入ってくる。

そうか、資材搬入の日だ。

 

じゃ、先生やめてくださいって言ってもすでに工事は動きだしていたんだ。

発注はずっと以前にある程度すんでたんだ。

そりゃそうだ。

 

て、ことは…

ひえーーーーーーー!

江里先生とやるしかないのか?

あの図面で?

あの席数で?

 

バタバタ動き出してる現場で混乱してきた。

気分も悪くなってきた。

胃がキューんと痛みだしてきてキリキリしだした。

あ、胃が溶けてるってわかった。

 

胃が弱いのです。

すぐに胃が痛くなる。

よくこんなんで商売してるなと自分でも思う。

 

メンタル弱い。。。

いやいや、どうするかちゃんと考えないと。

 

突然、はつり屋さん(コンクリートなど削る、掘るなどする)が怒りだした。

江里先生と話ししてる。

なんでも順番が違うからはつれないとかなんとか。

また、やり直しですか!

とかなんとか。

おかしいじゃないですか!

とか何とか。

 

資材はガンガン搬入されてる。

はつり屋さん激怒しだす。

現場の空気感はガチャガチャになっいく。

 

なんじゃこの現場…

そして、遂にはつり屋さんは怒って出ていかれました。

うん?ということは、基礎やり直し→工事進まない→工期大幅に遅れる→オープン遅れる→空家賃延長→お金かかる→僕困る…

 

あー完全に胃が溶けたわ。

 

少し落ち着いてから

「江里先生ちょっといいですか?

もう一度話し合いましょう。

僕としてはやはり席数とか色んなことは絶対にゆずれないので、お金かかってもしょうがないです。

やはり当初通りの構想でやり直して70席ほどのお店作りたいです。」

何ヶ月か遅れても仕方ない。

お金もかかると思う。

 

工期が少し遅れても、お店って何十年も続くこともある。

 

良いお店を作りたい。

ただ、それだけ。

その気持ちを江里先生に落ち着いてゆっくり話した。

 

江里先生も納得してくれたみたいだ。

今でも覚えている。

西鉄グランドホテルのグランカフェで話し合いをした。

 

「というわけで、先生やめてもらえませんか?」

単刀直入に切り出した。

江里先生はずっと考えてる。

返事は決まってる。

施主がやめてほしいと言ってるのだから。

違約金とかそれまでのデザイン料は発生するけど仕方ない。

 

江里先生が口を開いた。

「どうして?」

「え?」

やめなきゃいけない理由が江里先生には見当たらないのか、わからないのか…

「客単価10,000円とれば良いんじゃない?」

え?

思いもよらぬ返事に言葉を失った。

 

「いや、そうじゃなくてですね。

70席くらいで大衆酒場より少し良い感じがいいんですよ。売り上げと利益欲しいんですよ。」

「うん、わかってるよ。売り上げと利益よね。だから今回のデザインがいいの。客単価10,000円とればいいのよ。」

「いや無理ですよ。何言ってるんですか?そんな料理つくれないし焼き鳥屋ですよ!

安くて美味しいから焼き鳥屋なんです!なんもわかってないじゃないですか!」

 

だんだん大声になってくのがわかった。あの静かな場所で。

少し深呼吸してから、落ち着いてゆっくり話そう。

うん、落ち着いて。

前原商店街の八兵衛では数々の猛者を相手にしてきたじゃないか。

前原の猛者たちに比べたら楽な相手だよ。

そう言い聞かせた。

 

「先生、いいですか?もう一度言いますよ。福岡の焼き鳥って安くて美味しい。これが基本なんですよ。

それを少し高級にして天神界隈のOLさんに喜んでもらいたい。

わかります?少しオシャレなお店。

それを作りたいのですよ。

高級はいらないです。」

 

少し間をおいて江里先生が静かに言った。

「わかってないのは、八島くんじゃない?」

 

つづく

店主 八島 且典