上人橋通り物語 第十五話

 

牛宝のおやじさんは怒ってはった。

当時20年前ころ、やはり同業者は嫌がられてた。

今でも多少嫌がられてるけど。

それに飲食店主が友達になって、一緒に視察に行くとかもあり得ない時代でもあった。

ネタ元をバラすなんてあり得ない時代だったし、独自のアンテナとリサーチ力が利益の源であった。

勉強になるお店は絶対に教えない。

いや、教えてなるものか。

 

まだ、ネットが発達してない時代。

アンテナ力と行動力がすべてだった。無駄足も多かったものだ。

 

そんな牛宝さんのメニューで「すき焼き」というのがあった。

すき焼きが出てくるのでなく、和牛ロース1枚をすき焼きのタレで炭火焼きにしたものが卵黄と一緒に出てくる。

今では珍しくもなんとないが。

 

炭火焼きのすき焼き。

これが美味しかった!

すき焼き食べたいけど、量多いし高いしで。けど、和牛ロース1枚のすき焼きを味わえるってめちゃくちゃ嬉しかった!

 

これメニューにしよう!

淳也、稲田、うさみ達を連れて何度か行った。

店主が怖かったけど、本当に怖かったけどこちらも必死だったから。

 

そして、もう一つ感動したメニューがあった。

京都の杉原先生に教えてもらった「チキンラーメン」である。

 

メニューに「チキンラーメン」てあるから食べてごらんと。

 

え、チキンラーメンがあるんですか?やはり日清のチキンラーメンを想像してた。

 

そして出てきたチキンラーメンは本格的な鶏がらスープの濃ゆいものだった。

う、旨い!なんじゃこりゃ!

鶏白湯のめちゃくちゃ旨いラーメンやん!

このギャップがたまらなかった。

 

店主は怖いけど尊敬できる人だった。料理するときの所作一つとっても初めて感動した人だと思う。

そして、お客さんが帰られる時はずっと頭を下げておられた。

何分ぐらいだろう。。。

その姿にも感動したし、泣きそうにもなった。最近はずいぶん丸くなられてたけど。その商売に対する姿勢は変わってなかった。それも淳也たちに感じてほしかった。

ノリで商売しない。

 

杉原先生いわく。

メニューにはな、クスッと笑えるものも必要なんだよ。

チキンラーメンってメニューにあったらクスッと笑えるしね。

そして頼んで出てきたらどこよりも本格的な鶏白湯ラーメンだったら

ビックリしはるしね。

サプライズ。

 

飲食店は安心感とサプライズが大切。

 

おおお!これもメニュー作りのヒントやん!

チキンラーメンいいやん!

八兵衛でも出そう!

僕たちのこだわりはやはり

ラーメン丼ぶりにも、あった。

小さいサイズだけどちゃんと底に龍が描かれてる一般的な丼ぶりが良い。博多ラーメンの鶏白湯。

それがイメージだった。

 

チキンラーメンが出てくると思いきや本格的やないかい!

しかもちょっと可愛い。

 

高級店の八兵衛だけど

どこかにクスッと笑えるメニューって必要やん!

そして焼き鳥屋だから鶏白湯というストーリーもできてる。

親子丼や鶏そぼろ丼なら当たり前やし。

八兵衛ならこうするってのも欲しかったし。

 

おおー!なんか見えてきたやん!

 

早速みんなで試作に入った。

おおおおおー!美味しいやん!

すき焼きもチキンラーメンも!

 

メニューにのせる時だったか試作の時だったか、宇佐美(弥七)がすき焼きを串にしてた。

エノキと春菊を和牛で巻いてたのだ。

「いや、ちがうやん。巻かんでいいやん。」

「いや、こっちの方が美味しいって考えたんですよ。焼き鳥屋だし」

「いや、違うって、それ売れんやろ。」

しばらくあーだこーだが続いたけどあまりにも引かないもんだから、じゃあお客さんに決めてもらうやん。

八兵衛の伝統というか

お客さんに決めてもらおう。

 

それが大ヒットした。

「すき焼き串」

今では世界中のhachibeiでも大人気メニューのひとつになった。

 

なんでも串に刺せば焼き鳥

シュウマイだって串に刺せば焼き鳥。

これが福岡スタイル。

福岡スタイルの焼き鳥にまた一つスタンダードが生まれた瞬間だった。

 

そしてチキンラーメンも福岡スタイルのスタンダードになった。

 

僕たちはいつも思ってる。

八兵衛は福岡の屋台の延長だと。

お客さんが喜ぶなら寿司だって握るしデザートだって作ろうよ。

喜ばせ屋さんになろうよ。

 

節操がないといえばそうだけど。

フレキシブルなんです。

 

世界や日本のどの街へ行ってもなんでもやるしできるし。

 

けれど、まだまだ赤字の日々。

 

胃が痛いのはおさまらない。

江里先生来たら相変わらず悪態をついてしまう。

 

あと何がたりないのよーーー!

これ以上どうすんのよーーー!

まだ浸水とまらんし、沈没まであと何ヶ月よーーー!

 

前原商店街からそれほど苦節でもなかったけど20年の歴史がぁぁぁ。

 

やっと2号店の天神店で上手くいってきたばかりなのに。

 

じっとしてたらお金は減らない。

けど、お金にならない。

勉強に行けばお金は減る。

けど、お金になる。

 

もうこうなったら、答えを見つけるまでやるしかないやん!

ひたすら勉強に行こう!

 

つづく

店主 八島 且典