上人橋通り物語 第十一話

 

作業服を着たお爺さんは

お金を払ってくださいと

言う。

 

「あのぉ非常に困っております…。早くお金を払ってくれんと、どげんもこげんもならんとですたい。あなたが社長さんですな。」

「はい、そうですけど。

お金借りた覚えもないし、

それに誰ですか?」

「あたしは、材木屋ですたい。江里先生に頼まれて一番良かアサメラの無垢ば納めたとですたい。支払いが遅れてうちはもう困り果てとるとですたい。」

 

上人橋通り店のこだわりは、アサメラの無垢を使うことでもあった。

レセプションのカウンター、

待ち合いの椅子、カウンターの一枚もの、テーブル席、そして個室は圧巻の大きな一枚モノである。

そのほんのり赤みをおびたアサメラにウシオスペックス(現在モデュレックス)の照明器具。

 

こうすると店内にいる女性が綺麗に見えるのだよと、江里先生が話してたのを知っている。

 

「期限をすぎてもいっこうにお金が入ってこんとですたい。直接来たらいかんことは、わかっとりますが

小さな材木屋ですけん。とにかく

入金がないと困るとですたい。」

工期が大幅に遅れたら、支払いも当然大幅に遅れる。

 

「あ、ちょっと待ってください。

え?ウチが直接払うのですか?」

「はい、お願いできんかなと思って直接来ました。」

 

金額を聞いてでんぐり返りそうになった。

クラウンの新車買えるやん!

うそやろ!

 

とにかく一番よい木目であり、アサメラの一枚板である。

 

ワナワナ震えたのを覚えている。

ショーケースだって

瓦だって高いって!

 

とにかく、ウチが支払うようにした。

 

誰が悪いわけでもなく、工期が遅れることなんて良くあることだし。

 

とにかく支払いしなきゃと

支払いを約束して。

後日振り込んだのを覚えている。

 

そんなに高いんだぁぁぁぁぁ。。

 

と言うことは、見積もりを

大幅に超えてきてるんじゃない

ですか???と。

 

ショーケースのガラスゥ

キッチンの壁の瓦ぁ

フローリングの竹ぇ

そして今回のアサメラァ

その金額を支払うと運転資金がなくなるんじゃないですか?と。

 

運転資金無くなるどころじゃないですよね?

これ総額いくらかかるのよ!

 

当時ちょっといい居酒屋とかで

坪80万〜100万が相場で、その金額だしたらかなりのモノができてた。

今回35坪×江里先生だから、4,500万くらいを予定していた。

それでもお釣りがくると思ってた。

 

江里先生の口癖は

「いくらするとか、お金のこと考えてたら良いものは作れな〜〜い。」

だった。

 

怒りと不安、この二つが複雑に入り混じって腹が立つわ不安だわで

胃が溶けていくのがわかった。

そして怒りと不安と己の不甲斐なさに震えていた。

 

え? 

追加融資とか?

なの?

銀行さんが追加融資してくれなかったら?

 

つづく

店主 八島 且典