上人橋通り物語 第十話

 

ガチャン!と大きな音がした!

みんながあっ!と叫んだ。

一瞬5メートル30の1枚ガラスを見失っでしまった。

うっ、心臓が止まった気がした。

僕は後ろにいたからよく見えなかった。

 

なんとそのガラスは、ネタケースの中に半分落ちて大きな音を出していただけだった。

ネタケースのステンレス底板が大きな音を出していたのである。

 

ガラスは無事だったのだ。

 

良かった。ほんとに良かった。

 

そして無事にネタケースが完成して

それをみんなで眺めた。

みんなの目は輝いていた。

 

圧巻である。

おそらく日本一の、

いや世界一のネタケースである。

 

福岡の焼き鳥屋の象徴とも言える

ネタケース。

その当時は知らなかったのだが、

焼き鳥屋にカウンターを囲むようにネタケースがあるのは、福岡が発祥であり福岡だけの文化だと。

 

江里先生がどうしてもこだわったこのネタケース。

それは福岡の焼とり文化で、

一番大切にしなければならなかったことなんだ。

 

そのネタケースを眺めていたら、

あゝやっぱりこれが福岡やん。

カッコいいやん!

と悦に入っていたのを覚えている。

 

人間って不思議なんもんで

終わりよければではないけど、

どんなに高額でもそれが素晴らしければ満足するんだ。

 

流石に田舎者の僕たちでさえ

その素晴らしさはわかった。

 

そして、残りの作業を続けている時

突然の来客があった。

 

「大将、だれかきてますよ。

大将に会わせてくださいって」

「だれ?こんな夜更けに」

玄関に行くと作業服を来たお爺さんだった。

「えっと、どちら様ですか?」

「お金を払ってください」

「えっ?お金?」

 

なんのお金?なんで僕が知らない人に請求されてんの?

 

つづく

店主 八島 且典