上人橋通り物語 第六話

 

よく考えてみると。

数年前までは前原商店街の焼き鳥屋で焼いてた兄ちゃんでした。天神にお店出すことだって大変なことだった。

 

前原店は22歳の時大工さんと相談しながら作った。

天神店は居抜きだったしあの空間が好きだったから、厨房屋さんとネタケースとキッチンだけを作った。 

39歳の時だった。

 

そして、3店舗目で初めてスケルトンからお店を作ることになったのだ。

 

言うなれば初めてデザイナーさんを入れて、その人が江里先生だったと言うもう無茶苦茶な脈略も何もない話しだ。

 

例えが本当に思い浮かばないけど、

いつもはTシャツ短パンだった兄ちゃんが、ちょっとオシャレしようと天神のデパートに買い物にきて、少しだけカッコいいポロシャツとか

小洒落たジーンズとか選んでる最中に僕が君に似合うのを作ってあげるよと言われてイギリス製だかイタリア製だかわからない仕立て屋に連れていかれて採寸されてスーツを作ってるようなもんだ。

 

頑張って1万円でオシャレしようと思ってたのに50万円のスーツを仕立ててるようなもんだ。

 

この生地なんすか?

イタリア製?ゼニヤ?

最高級?はい?

 

みたいな。

そんな感じだったと思う。

 

いや、お金ないすよ。

いくらするんすか?

はい?〇〇万円‼️

 

もう採寸して仮縫いまできてて、

ここでやめるわけにはいかないけどお金ないやん。

 

もうそれだけでした。

胃に穴があいたのがわかった。

ずっとキリキリ痛かったもん。

 

スーツを仕立ててると登場したのが、

あかざさんと言うコーディネーターみたいな人。

 

例えて言うと、

このスーツにはね。このフランスのチーフがいいですし、ベルトはイタリア製にしましょう。

靴は、、、。

なんて言われてるようなもんだった。

 

もうその頃は、ポロシャツ買いに来た兄ちゃんも半分はその気になってて。。。

 

なんかカッコいいなぁ。

好奇心が大きくなっていったのも事実。

初めて触れる高級品。

本物だけが持つオーラや輝き。

 

これどんなのが出来上がるんやろ。

みんなきっとビックリするよね。

飲食人のサガである。

人さまを喜ばせたい驚かせたい!

その気持ちが強いのである。

 

後々それがとんでもない事を招くとは知るよしもなかった。

 

話しは戻ってあかざさんが

今度は椅子を選んできてると言う。

この江里デザインのお店に合う椅子を。

 

その時初めて椅子の作家ジョージナカシマという名前を知るとこになる。

 

「ジョージナカシマさんの椅子のデザインがとっても合うからぁ。

これにしようかと思ってます。」

「だれすか?その人?あー!

高いですよね!絶対そうやん!」

「あゝはい。桜坂・観山荘さんくらいのだと椅子テーブルで1店舗1,000万円くらいはしますね。」

「はい?」

 

つづく

店主 八島 且典