上人橋通り物語 第五話

 

江里先生が言い出した。

「これやり直しましょう」

瓦の枚数があってたってことは図面通りだったと思うけどなぁ。

 

「ちょっと間隔が違う。もっと詰めたほうがいい。」

「えっ、いやこれで凄くいいですよ!ほら、玄界灘の波、博多塀のイメージだし。僕にはめちゃくちゃ良く見えるしそれに…」

「いや、ダメだ!」

 

ちょっ、、、。

瓦、瓦、瓦、瓦どうすんすか!

もう枚数ないすよ。

そしてこれ全部剥がしてまた、やり直しって。。。。 

また追加発注するんすか?

 

「先生、時間も予算ももう軽くオーバーしてます!このままでいきましょう!瓦また発注して工事の段取り遅れて、、、」

また職人さん怒ってやめるって。

 

もう胃が痛いって。

怒りと涙と胃液がドバーーーって出てきた。吐く…

 

これまでの施主さんは、お金持ちさんで余裕ある方が多かったと思う。

 

江里先生にお願いした時点で、図面あがったらすぐに発注はじまってて。

お願いしたってことはそういうことだって、後から知った。 

ビフォーアフターみたいに、完成まで楽しみにしてる。

 

まかせたら出来上がるまで

ほぼ何も言わないらしい。 

たぶん初めて最初から図面みせてもらって完成までゴチャゴチャ言った最初で最後の施主だったみたい。

途中でモメてやめた人は多かったみたいだけど。

 

結局、職人さんと話し合ってやり直すことになった。

その職人さんも大したもんだとおもう。

 

江里先生の話に納得したのだろうか?

僕はまったく理解も納得もしてませんでしたが。

 

そして、一旦工事がとまった現場に行くと助手だろうと思ってた女性がやってきた。

 

「あかざえりです。今日は八島さんに調度品の説明に来ました。」

「調度品?なんですのん?」

「はい、書とか花器とか…」

「書?花器?なんすか、それ?」

「このお店にかけようかと思ってて頼んでおきました。」

「壁に貼るやつですか?」

「表装して壁にかけます。」

「ひょうそう??なんすか?」

 

花器は古いお寺だったかなんだったかの板に銅板丸めたようなものがつけてあった。

見る人が見たらわかる芸術性の高いものだと思う。

 

しかし、その当時僕は43歳。

少し前までは前原商店街の事業意欲だけあるニイチャンって呼ばれてた。

書とか表装とか花器とか突然言われても。。。わかるわけがない。

 

「焼き鳥屋の壁にはポスター貼ればいいやないすか。ほらサントリービールの水着とジョッキのポスター。

須之内美帆子とか安田美沙子とか。大好きなんでそれ貼ろうと思ってますけど。」

「それより書のほうが良いですよ。」

 

ポスターどれにしようか考えてんだけど。

いや、ポスターでしょ!

焼き鳥屋には!

 

書?表装?花器?

もうすぐ到着するの?

 

ちょっと待ってって!

 

いや、耐えきれんって。

お金もうないって。

 

やめたい。

もう無理…

 

つづく

店主 八島 且典